泊発電所2号機の定期検査の状況について
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2008年4月22日
泊発電所2号機(加圧水型軽水炉、定格電気出力57万9千キロワット)は、平成20年3月13日より平成20年6月中旬にかけ、第13回定期検査を実施します。
国内加圧水型(PWR)プラントにおいて、蒸気発生器1次冷却材入口管台溶接部にき裂が認められた事例に鑑み、経済産業省原子力安全・保安院より指示があり、蒸気発生器出入口管台溶接部の内表面の点検を実施します。
(平成20年3月6日 お知らせ済)
泊発電所2号機において2台ある蒸気発生器(SG)の1次冷却材入口管台溶接部の内表面について、渦流探傷試験(ECT)*1および超音波探傷試験 (UT)*2を、1次冷却材出口管台溶接部の内表面について、ECTを実施しました。
その結果、A-SG入口管台溶接部で3箇所(最大長さ約13mm)、B-SG入口管台溶接部で10箇所(最大長さ約10mm)の有意な信号指示を確認しました。
また、このうち、当該部周辺の板厚実測値約78mmに対し、A-SG入口管台溶接部の1箇所(深さ約7mm)、B-SG入口管台溶接部の1箇所(深さ約5mm)の計2箇所の板厚が、電気事業法に基づく工事計画認可申請書に記載の75mmを下回ると評価しました。
なお、本事象による環境への放射能の影響はありません。
(平成20年4月9日 お知らせ済)
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*1:
渦流探傷試験(かりゅうたんしょうしけん)(ECT)
材料表面に渦電流を流して、材料に発生する電磁誘導の変化から検査対象の傷を検出する方法。 -
*2:
超音波探傷試験(UT)
構造物に入射した超音波が欠陥に当たって跳ね返ってくる反響を観測することにより、欠陥の形態、形状、寸法を測定する方法。
その後、型取観察*3やスンプ観察*4等により原因を調査してきましたが、本日、この調査結果を踏まえ原因と対策を取りまとめましたのでお知らせします。
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*3:
型取観察
表面状態をフィルムに転写し、表面の状態を観察すること。 -
*4:
スンプ観察
損傷部の表面を磨いた後、表面にフィルム等を貼り付け写し取り、これを顕微鏡で観察すること。
- 原因調査結果
- (1)型取観察
- A-SG No.1指示部では、全体的にグラインダ施工*5(研削)の上にバフ施工*6の仕上げ跡が見られ、割れの部分を含めて、明瞭なグラインダ施工(研削)の跡が認められました。
- B-SG No.5指示部では、全体的にグラインダ施工(研削)の上にバフ施工の仕上げ跡が見られ、割れの部分においてはグラインダ施工(研磨)と考えられる仕上げ跡が認められました。
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*5:
グラインダ施工
溶接部表面等に対して、電動工具等に取り付けた円形状の砥石で研削または研磨を行うこと。 -
*6:
バフ施工
溶接部表面等に対して、電動工具等に取り付けた砥粒を付着させた布ペーパーを何枚も円形状に組み合わせたもの(バフ)で、グラインダ施工より細かな研磨を行なうこと。
- (2)スンプ観察(B-SG No.5指示部)
- 長さ約1.8mmから約5.0mmの軸方向割れが複数認められ、全長は約7.6mmでした。
- 割れの周辺に、直径約7mmの手直し溶接と思われる溶接の跡が認められました。
- 割れはデンドライト境界*7に沿っており、これまでに国内外の600系ニッケル基合金溶接部で確認されている1次冷却材環境下における応力腐食割れ*8と同様の様相が認められました。
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*7:
デンドライト境界
溶接部では、溶融した金属が固まる際にできる結晶(デンドライト結晶)ができ、その結晶組織の境界のことをデンドライト境界という。 -
*8:
1次冷却材環境下における応力腐食割れ
1次冷却材環境下で600系ニッケル基合金に発生するPWRプラント特有の応力腐食割れ。(材料、環境および応力の3要素が重なって発生する割れ)
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(3)製造履歴調査
当該SGは、昭和60年7月から平成元年3月の間に工場で製造されていました。
当時の試験検査記録を確認するとともに、関係者への聞き取り調査を行った結果、SG入口管台溶接部は、メーカで定められた手順どおりに製造されており、標準的な仕上げ方法はグラインダ施工(研削)の後にバフ施工(3往復)であることを確認しました。
また、バフ施工後、メーカ社内での浸透探傷試験(PT)*9で有意な指示が認められた場合等には手直し溶接を実施する可能性があり、この場合にはグラインダ施工(研磨)にて仕上げている可能性がありました。
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*9:
浸透探傷試験(PT)
試験体表面に開口している傷を目で見やすくするため、可視染料の入った高浸透性の液を浸透させた後、余分な浸透液を除去し、現像液により浸透指示模様として観察する方法。
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(4)文献調査
関西電力(株)美浜発電所2号機および日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機のSG入口管台溶接部において見つかった割れは、いずれもデンドライト境界に沿った軸方向のひび割れで、高い引張残留応力により応力腐食割れが発生したと推定されていました。
また、敦賀発電所2号機の調査では、表面加工状態確認試験および実機サンプリング調査を実施しており、表面残留応力を推定していました。
さらに、600系ニッケル基合金溶接部の応力腐食割れの発生については、PWRの1次冷却材環境下において約300MPa以上の応力により発生するとの知見を確認しました。 -
(5)泊発電所2号機SG入口管台の表面残留応力の推定
泊発電所2号機の表面残留応力を推定する目的で、敦賀発電所2号機の表面加工状態確認試験や実機サンプリング調査の結果と、型取観察で確認した内表面の状態とを比較しました。
A-SG No.1指示部では、割れの部分を含めて、明瞭なグラインダ施工(研削)の跡が認められ、敦賀発電所2号機の実機サンプリングで確認されたものと同様の表面状態でした。また、B-SG No.5指示部では、割れの周辺部分において、手直し溶接後のグラインダ施工(研磨)によるものと考えられる仕上げ跡が認められ、表面加工状態確認試験結果と同様の表面状態でした。
これらの結果から、泊発電所2号機の当該溶接部の表面残留応力は、応力腐食割れの発生応力である300MPaを超えていた可能性があると推定しました。 -
(6)調査結果のまとめ
- 割れはデンドライト境界に沿っており、これまでに国内外の600系ニッケル基合金溶接部で確認されている1次冷却材環境下における応力腐食割れ事象と同様の様相が認められました。
- 割れの認められた部位には、グラインダ施工(研削、研磨)の跡が認められました。
- バフ施工後、手直し溶接を実施した場合に、グラインダ施工(研磨)にて仕上げている可能性がありました。
- 泊発電所2号機の当該溶接部においても、1次冷却材環境下における応力腐食割れの感受性があると考えられる約300MPaを超える引張残留応力が発生していたものと推定しました。
これらの結果から、敦賀発電所2号機で確認されたものと同様に、グラインダ施工(研削)およびバフ施工による仕上げで、グラインダ施工(研削)の跡が残った部位や手直し溶接部のグラインダ施工(研磨)の部位に、高い引張残留応力が発生したため応力腐食割れが発生し、その後進展した可能性があることがわかりました。
- (1)型取観察
- 推定原因
SGの製造時、入口管台とセーフエンドを600系ニッケル基合金で溶接し、内表面をグラインダ施工(研削)とバフ施工による仕上げを行った際に、局所的にグラインダ施工(研削)の跡が残った部位や、一部手直し溶接後にグラインダ施工(研磨)による仕上げを行った部位に高い引張残留応力が発生し、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生したものと推定しました。
- 対策
以下のとおり対策を実施します。
- (1)切削装置にてSG入口管台溶接部の内表面全周を切削し、浅い割れを除去した後、必要によりグラインダ施工(研削)にて部分的に深い割れを除去します。なお、割れ等が除去されたことについてはPTにより確認します。
- (2)その後、深い割れを除去した部位について、600系ニッケル基合金で肉盛溶接を行った上で、溶接部内表面全周をより耐食性に優れた690系ニッケル基合金により肉盛溶接を行い復旧します。また、念のため、当該部の残留応力低減のためバフ施工を実施します。
なお、対策工事に伴い、発電再開については夏頃となる見込みです。
本件については、原子炉等規制法に基づき経済産業省へ、また安全協定に基づき北海道および地元4カ町村へ報告済みです。
報告書については、当社本店1階「原子力ふれあいコーナー」および原子力PRセンター(とまりん館)「原子力情報公開コーナー」において公開します。
(経済産業省によるINESの暫定評価) 基準1 基準2 基準3 評価レベル - - 0- 0- INES:国際原子力事象評価尺度
【添付資料】
泊発電所2号機 定期検査状況について(蒸気発生器1次冷却材入口管台溶接部での傷の原因と対策) [PDF:240KB]